遺留分を侵害する遺言は、悪い遺言?

◆遺留分とは

遺留分とは、生前贈与や遺言で財産を遺す人が財産を譲渡しても、相続人が最低限の遺産を確保するために決められた制度です。兄弟姉妹以外の相続人は、相続財産の一定の割合を取得できる権利があります。

 

なぜこのような制度が出来たかというと、例えば、遺言者である夫40歳、妻35歳、長男15歳、長女13歳の家族がいたとします。夫は遺言書を作成して、恋愛感情のある女性に全財産を譲る内容の遺言書を書いて、もしも亡くなってしまった場合、遺された妻や未成年の子供たちは、全く財産がなく、生活に困窮してしまいます。

そんな困った状態を防ぐために法は、亡くなった方と関係の近い親族に遺留分の制度を設け、生活に困らないようにしたのです。

 

遺留分の割合は、相続財産の価額に法定相続分をかけて

相続人が遺言者の父、母だけの場合は、3分の1

それ以外の場合は、2分の1となります。

 

「それ以外」とは、相続人が配偶者だけの場合、配偶者と子の場合、子だけの場合、配偶者と親の場合が該当することになります。

先程、お伝えした通り、遺言者の兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

 

それでは、わかりやすくするために具体的な金額で一部考えてみましょう。

例としまして、亡くなった方の相続財産は、6000万円にします。

 

相続人が配偶者だけの場合、相続財産6000万円の2分の1が遺留分となり、法が保障する配偶者の最低限相続できる額は3000万円となります。

 

相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の遺留分は、相続財産6000万円の法定相続分2分の1、その2分の1が遺留分となり、1500万円となります。子1人の遺留分は、相続財産6000万円の法定相続分4分の1、その2分の1が遺留分となり、750万円となります。

 

相続人が母親だけの場合、相続財産6000万円の3分の1が遺留分となり、2000万円となります。

 

遺言書は、遺言者の最終の意思を尊重するものです。

ですから、その意思を尊重して、遺言書どおりに財産を譲ることが理想にかなうと思いますが、法はその理想より、相続人の最低限相続する権利(遺留分権)を優先しています。つまり、遺言者が望んだとおりに財産を譲れない場合があることに注意が必要です。

 

◆遺留分侵害額請求権とは

遺留分を侵害された相続人は、その判断で自分の遺留分を、財産を多くもらった人より取り戻す権利を主張するか、それとも、権利を主張せずそのままにしてしまうかを選択する権利があります。

 

請求方法は、裁判上の訴えでなくても可能です。

口頭で「遺留分を侵害しているので、○○万円を支払ってください。」

と言っても大丈夫なのですが、そうすると後日言った言わないの水掛け論になる可能性があるので、配達記録証明付きの内容証明郵便でその旨を伝える方が良いでしょう。

 

遺留分を侵害された相続人が、その権利を主張できる期間は

「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間、または、知っていることを問わず相続開始の時から10年を経過したときは、権利が消滅します。」

 

もしも、遺留分侵害額請求をしても、侵害している相続人が払ってくれない場合や払うつもりはあっても、その払う金額がどうしても、折り合わない場合は裁判所への申立てをして解決していくことになります。実際には、支払う金額の計算方法が難しいので、なかなか話がまとまらないケースが多いと思います。そういう場合は、弁護士に相談していただき、解決に導いてもらう方が良いでしょう。

 

◆生前の備えは有効か

先程お話をした通り、遺留分の権利を行使するか、しないかは遺留分権利者の判断によるので、なかなかもめごとにならないように考えることが難しいのですが、対策としては、遺言書作成の時に将来財産を譲らないか、少ない額を譲る相続人にあらかじめ遺留分に見合う財産を生前贈与して、家庭裁判所への遺留分の放棄という手続きをお願いする方法があります。そうしますと、遺留分の権利はなくなることになります。

 

あとは、遺言書作成の際は、遺留分の額に気をつけて、侵害しないような分配方法で作成するのが1番良い方法です。

 

それでも、ある相続人に遺留分を侵害するような多くの財産を遺したい場合、法的な効力はありませんが、「付言事項(ふげんじこう)」というものを利用する方法があります。

それは、遺言書の最後の方にメッセージとして、どうしてこういう遺言書を書いたのか、また遺留分を侵害している相続人に侵害額請求はしないようにお願いすることは出来ます。

 

私が遺言書の作成をお願いされた場合は、侵害するような分配方法をご希望の遺言者には、丁寧に遺留分の説明、侵害額請求の説明をします。それでも、ご希望が変わらない場合には、そのご希望通りに遺言書を作成しています。

その説明の際は、遺留分を侵害されてしまう方の経済状況、性格など聞き取りをして、さらに説明を加えたりしています。

最終的には、遺言者の意思を尊重した遺言書を作成しています。

以上